仕事選びには、避けるべきたくさんの「罠」があります。
人間の脳はとても騙されやすく、注意していなければ「サンクコスト」「利用可能ヒューリスティック」「社会的証明」などの心理効果にかんたんに引っかかってしまいます。
この記事は、
- 「転職を検討していて、絶対に仕事選びに失敗したくない」
- 「第二新卒の転職だから、もう後がない」
- 「転職してみたけれど、違和感がある。この仕事選びは失敗だったのか答え合わせがしたい」
という方に向けた記事です。
今回は、「仕事選びにおいて、これだけは避けるべき」という5つの鉄則をまとめました。ぜひお役立てください。
なお、これからご紹介する5つの鉄則は「科学的な適職」という書籍から抜粋してご紹介しています。これを読めば、誰かの経験談をもとに仕事選びをするより、よっぽど失敗しづらいはずです。ご興味があれば、購入してみてください。
「好き」で仕事を選ぶと失敗する
「好きなことを仕事にすれば幸せだ」とよく言われますよね。しかし、科学的には、「好き」を仕事に選んでも、長期的な幸福度は変わらないことがわかっています。
この章では、「好き」を仕事にする負の側面についてみていきます。
好きを仕事にしても、最終的な幸福度は変わらない
最近では「好きなことを仕事にしなさい」という言説をよく耳にしますね。ギャラップ社が139カ国を対象にした調査によると、情熱を持って仕事に取り組めている日本人は、たった6%しかいないようです。
一方で、「熱意を持って取り組めていない」と回答した人は、70%にも登ります。
「好きなことを仕事にできたら、幸せだろうな」と幻想を抱いてしまうのも、無理はありません。しかし、研究によると、好きなことを幸せにしても、最終的な幸福度は変わらないことがわかっています。
ミシガン州立大学の研究では、被験者を、以下2つのパターンに分け、追跡調査しました。
好きなことを仕事にすることが幸せだ、と考える適合派タイプ。給料が安くとも、満足のいく仕事がしたいと考える傾向がある
仕事は続けていくうちに好きになるものだ、と考える成長派タイプ。そんなに楽しくなくてもいいが、お金は欲しいと考える傾向がある
この研究では、意外なことがわかりました。研究の結果、仕事を始めて1年未満では、適合派の幸福度が高かったのですが、1年〜5年の長期スパンで見ると、成長派の幸福度が高かったのです。
これは一体どういうことでしょうか。研究者の考察では、適合派は、はじめこそやりたかった仕事がやれて幸福だったが、徐々に理想と現実のギャップに気づき、幸福度が低下した、とのことです。
仕事では、関わりたくない人間関係や社内政治もありますし、雑務も当然発生します。そのため、「好きを仕事にしたい」と考える人は、どうしても理想と現実のギャップに苦しんでしまうのでしょう。
割切り派がもっともスキルが早く身についた
オックスフォード大学は、北米の動物保護施設で働く従業員にインタビューを行い、その後の仕事の継続率やスキルの習得速度について、追跡調査する研究を行いました。
その結果、もっとも仕事の成績がよかったのは「仕事は仕事」と割り切って考える群でした。
過去に費やした時間が、仕事の情熱を生む
結局のところ、情熱は過去に費やした時間から生まれます。英語が好きな人も、最初から英語が好きだったわけではないはずです。たくさん勉強して、英語ができるようになって初めて「なんか楽しいかも」「これ向いているかも」と感じます。
そのため、仕事においては、「好きを仕事にする」という考え方よりも、「仕事はやっていくうちに好きになるものだ」という考え方を持っておくのがベターです。
給与の多さで仕事を選ぶと失敗する
「お金で幸せは買えない」なんて言葉は、凡庸な言葉ですが、お金で幸せは買えないことは、科学でも証明されています。
この章では、給与の多さで仕事を選ぶのがなぜNGなのかについてご紹介します。
給与の多さと幸福度にはほとんど相関関係がない
フロリダ大学が行ったメタ分析では、給与の多さと幸福度にはr=0.15の相関係数しかないことがわかっています。r=0.15という数字は、統計学的には「ほとんど相関がない」と言える数値です。つまり、「給与が多いと、わずかに幸福と言えるかもしれないが、誤差の範囲」くらいの感覚です。
ちなみに、メタ分析とは、統計的分析がなされた多くの調査を、様々な角度から分析する手法です。現状、メタ分析はもっとも信頼性が高いレビュー方法とされています。
給与を上げるより、何倍も幸せを感じる方法
実は、給与を上げるより、もっとかんたんに幸せを感じる方法があります。
心理学実験には、給与の増加とライフイベントを比較して、どちらがより幸福度が増すかを調べた研究があります。
それら研究によると、以下の事実が判明しています。
- 仲の良いパートナーと結婚した時に得られる幸福度は、収入アップから得られる幸福度アップより767%大きい(7.6倍以上)
- 健康レベルが普通からちょっと体調がいい、に改善した時に得られる幸福度の上昇率は、収入アップから得られる幸福度より6531%(65倍)大きい
このように、収入を上げるより、好きな人と一緒にいたり、健康でいる方がずっと幸せを感じられるのです。
ここでは、「給与を上げる必要はない」と言いたいわけではありません。
ここで言いたいことは、「給与アップのために、健康や家族を犠牲にするべきではない」ということです。転職によって給与が数百万上がったとしても、激務で体を壊したり、家族との時間が取れなくなれば、給与のアップでは補えないほどあなたの幸福度は下がります。
あなたの最終目的が「幸せになること」だとしたら、給与のために健康や家族を犠牲にするようなことはやめましょう。
年収800万円以上は、年収が上がっても幸福度が上がらない
ノーベル経済学賞を受賞した、ダニエルカーネマンのプロスペクト理論によると、年収増加による幸福度の上昇は、年収が800万円に達した段階で、横ばいになります。
つまり、年収800万円以上ある人が、それ以上に幸せになろうと思ったならば、年収増加以外の方法で幸せをつかむ必要があるのです。
また 、年収800万に到達せずとも、400〜500万円に達したあたりで、年収増加による幸福度の増加率は大きく下がることがわかっています。つまり、年収が500万円以上ある人が、年収を増加させることで幸せをつかもうとするのは、コスパが悪いのです。
年収が400〜500万円すでにある人は、健康の維持や大切なパートナを見つける方が、ずっと幸せになれる可能性が高いといえます。
業界や職種で仕事を選ぶと失敗する
転職に際して、「伸びている業界に行けば、将来安泰だ!」という考え方もあるでしょう。しかし、私たちは将来を正確に予想することはできません。むしろ、人間は将来の予測が非常に苦手な生き物なのです。
この章では、業界や職種で仕事を選ぶべきではない理由をご紹介します。
人間には伸びる業界は予測できない
突然ですが、チンパンジーがダーツを投げると、どのくらいの精度で的に当たるかわかるでしょうか。答えは、約50%です。
そして、この数字は、専門家が未来を予測できる精度と同等なのです。
仕事を選ぶ際は、向こう10年で伸びる業界とそうでない業界を予測しますよね。しかし、マッキンゼーやシンクタンク、専門家といったプロ集団でさえも、未来を予想する精度はせいぜいチンパンジーのダーツ投げと同じなのです。
それこそ10年前は、Web系の会社が目立ち、多くの東大生はDeNAやライブドアなどに入社しました。しかし、今はどうでしょうか。様子はすっかり変わってしまったように思えます。
人間は、変化を予測できない動物です。そのため、「向こう10年」という長期のスパンではなく、まずは向こう2〜3年くらいの短期的なスパンで考えてみましょう。それでも、将来を予測することは相当に難しいはずです。
ここでのポイントは、2〜3年のスパンで仕事を見直し、伸びている業界にピボットすることです。
楽さで仕事を選ぶと失敗する
「楽そうだから」という理由で仕事を選んでも、実は幸せからは遠ざかってしまいます。この章では、楽さで仕事を選ぶべきではない理由をご紹介します。
楽な仕事は死亡率を高める
ハードワークが体を壊すことは、周知の事実ですよね。仕事のストレスが大きいと、精神病のリスクのみならず、脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まります。
一方で、楽すぎる仕事も、あなたの体を壊してしまうことをご存知でしょうか。高い地位に就いたビジネスパーソンは、明らかに他の従業員よりも業務量が多いにも関わらず、風邪や慢性病にかかりづらく、日中の仕事のパフォーマンスが高いことが、過去の数々の研究によって明らかになっています。
さらに、3万人を対象としたイギリスの研究によると、組織内で地位がもっとも低い人は、地位が高い人にくらべ、死亡率が2倍高いことがわかっています。
なお、この傾向は人間だけでなく、動物にも当てはまるようです。(詳しくは、書籍でごらんください!)
仕事には適度なストレスが欠かせない
アメリカのランド研究所は、過去に出た大量のストレス研究をレビューした上で、適度なストレスがもたらすメリットを3つ挙げました。
- 仕事への満足度を高める
- 会社へのコミットメントを改善する
- 離職率を下げる
私たちは「ストレス」と聞くと、どうしても「敵だ」と認識してしまいがちです。しかし、ストレスは、上手く使えば「良き友」になります。「楽そうだから」という理由で、ストレスフリーな仕事を選ぶと、幸せから遠のいてしまうこともありますので、ご注意を。
直感で仕事を選ぶと失敗する
「結局、直感が一番あてになるんだよね」
こんな風に考えている方もいるかもしれませんね。確かに、直感の有用性は研究でも明らかになりつつあります。しかし、直感でものごとを決めてもいいシチュエーションには条件があるのです。
- ルールが厳密に決まっている
- 何度も練習するチャンスがある
- フィードバックがすぐに得られる
仕事選びは、これら3つの条件にまったく当てはまりません。仕事選びにルールはなく、まして何度も練習するチャンスもありません。
また、選んだ会社が正解だったかどうかは、入社して数ヶ月働いてようやく分かります。つまり、フィードバックも極めて後になってからしか得られません。
このような状況下では、直感は正しく働きません。もしかすると「俺は直感で決めたけど、上手くいったよ」と、自分の直感に自信を持っている方もいるかもしれません。しかし、それは「生存バイアス」です。
直感で上手くいった人の背後には、数十倍、数百倍の「直感で上手くいかなかった人たち」がいます。成功談にばかり目がいきがちですが、仕事選びのような「失敗が許されない場面」では、見るべきは「失敗談」です。
おわりに
今回は、4021の研究データが導き出す科学的な適職から一部抜粋し、失敗しない仕事選びの5つの鉄則をご紹介しました。
この本では、今回ご紹介した以外に、「仕事選びで避けるべき2つの要素」や「じゃあどういう観点で仕事を探せばいいの?」という問いに対する回答が載っています。
その答えは、ぜひご自身で手にとって確認してみてください。