元高校国語教師、現Webライターの佐々木です。
この記事は、読点の使い方で悩んでいるあなたのための記事です。
あなたは小論文に取り組む高校生かもしれませんし、就職活動の志望理由書に追われる大学生かもしれません。もし執筆を生業にしているライターさんだったら、ちょっと緊張します。
上記のどんな方にとっても、面白く、かつ、ためになるように執筆しました。この記事を読めば、読点の使い方がわかるはずです。
読点の使い方で文の「意味」が変わる!
何よりも理解していただきたいのは、読点のあるなし・読点の位置で、文の意味まで変わってしまうということです。僕が口で説明するよりも、実感していただく方が早いでしょう。以下の例文1を読んでみてください。
ここで質問です。
血まみれになっているのは、刑事でしょうか? それとも強盗でしょうか?
答えは、「この文からは判断できない」です。
刑事が血まみれになりながら追いかけたのかもしれませんし、強盗が血まみれになりながら逃げたのかもしれません。この文は、どちらとも取れる「悪文」です。
ちなみに、こんな「どっちともとれる」ことを「二意性がある」なんて言います。余談ですが、「どっちともとれるよー」と言うより、「この文は二意性があるね」と言った方が頭よさそうに見えるよなと、個人的に思っています。
話を戻します。以下の例文2を読んでみてください。血まみれになったのは、刑事でしょうか?強盗でしょうか?
この例文2を読むと、血まみれになっているのは刑事だと判断できます。読点を打っただけなのに、です。
さらに例文3を読んでみましょう。
この例文3なら、血まみれになったのは強盗だと判断できます。こちらも、読点を打っただけなのに、です。
こんな風に、「読点のあるなし・読点の位置で、文の意味が変わってしまう」んです。3つの例文のどれも、読点以外には変更を加えていません。読点がとても大切だということを、まずはご理解いただけましたか?
読点の使い方は、好みでもある
文の意味まで変えてしまう読点ですが、読点の使い方の厳密なルールはありません。特に小説やエッセイだと、みなさんフリーダムに読点を用いています。
僕の知る限りもっともフリーダムに読点を駆使している文豪の、とある一節を紹介します。
でも、私みたいな女は、やっぱり、恋のこころがなくては、結婚を考えられないのです。私、もう、大人なんですもの。来年は、もう、三十。
(読点、多いなあ…)と思いましたよね。正直、僕もそう思います。ちなみにこちらは、太宰治『斜陽』から引用しました。
「あの太宰治ですらこんな読点の使い方をするなら、読点なんてもう自由でええやん!」とお思いでしょうか? そう言い切るのは早計です。ここで、読点についての僕の見解を述べます。
「表現技法としての読点」は自由でいい。しかし、「わかりやすい文を書くための読点」にはルールがある。
ここからは、「わかりやすい文を書くための」読点の使い方をお話しします。
ちなみに、僕は太宰治が好きです。
読点の使い方2大原則
読点の使い方に、厳密なルールはありません。
しかし、ビジネス文書・小論文・志望理由書などの「わかりやすい」文章が求められる場においては、「最低限ここには読点を使いたい」という原則があります。この章では「最低限ここには読点を打つべし」という2つの原則をご紹介します。
長い修飾語が2つ以上あるとき、その境界に読点を打つ
1つ目の原則は、「長い修飾語が2つ以上あるとき、その境界に読点を打つ」です。
(修飾語…? 学校で聞いたことあるような…? いや、わからん…)というあなたのために、まずは修飾語について説明します。
修飾語とは、ある言葉を詳しく説明するための語句のことです。
たとえば、「美しい花」の修飾語は「美しい」です。「美しい」が「花」を修飾しています。
―――かんたんすぎましたか? もう少し長い修飾語の例を出しましょう。
「会社のデスクに置いてあるパソコン」という文において、「パソコン」を説明する修飾語はなんでしょうか?
答えは「会社のデスクに置いてある」です。「会社のデスクに置いてある」が「パソコン」の説明になっていますよね。
ここから本格的に、読点の2大原則がひとつ「長い修飾語が2つ以上あるとき、その境界に読点を打つ」の説明に入ります。
こんな文章、あなたはどう思いますか?
読みにくいですよね。一瞬「ミスターチルドレンが会社のデスクに置いてあるの?」と驚いてしまいます。この例文が読みにくい理由は、「パソコン」が2つの長い修飾語で説明されているにもかかわらず、読点が使われていないからです。
この文の2つの長い修飾語とは、
- 会社のデスクに置いてある(パソコン)
- ミスターチルドレンのステッカーが貼られた(パソコン)
です。
さあ、2つの長い修飾語の「境界」に、読点を打ってみましょう。
途端に読みやすくなりました。きっともう誰も、会社のデスクにミスターチルドレンがいるとは思わないはずです。こんな風に、「最低限」読点を使いたい場所は「長い修飾語が2つ以上あるときの、その境界」と覚えておきましょう。
練習問題を用意しましたので、以下の文のどこに読点を打つべきか、考えてみてください。
よ、読みにくい…。読点を使って、読みやすくしてみてください。ヒントを出すと、修飾される語(被修飾語なんて呼びます)は「曲」です。
正解はこちらです。
「読点、2つなのかよ!!」と思いましたか? そう思ったあなたは、もう一度「読点の2大原則」を見直してみましょう。
今回の例だと、「曲」の修飾語は3つあります。
- たかし君がこの前話していた(曲)
- 米津玄師が最近リリースしたばかりの(曲)
- ものすごく感動する(曲)
これら3つの長い修飾語の境界に読点を打つことで、読みやすい文になるわけです。
短い修飾語を先に述べる場合に読点を打つ
2つ目の読点の原則は、「短い修飾語を先に述べる場合に読点を打つ」です。
論より証拠。以下の例文を読んでみてください。きっと、少し読みにくいんじゃないでしょうか。
一瞬、(たかしくんが私が?)と二度見してしまいますよね。(例文1が読みにくいのは、助詞『が』が連続してるからでもあるんですが…)
例文1の修飾語は、
- たかしくんが(告白した)
- 私が小学校の頃から好きだったマイちゃんに(告白した)
の2つです。
例文1のように、長い修飾語よりも短い修飾語が先に来る場合、その境界に読点を打ちましょう。
これなら意味がスッと入ってきます。
なぜか?
あくまでも基本的にですが、長い修飾語から先に伝えた方が、日本語は読みやすいとされているためです。これもちょっと例をみてみましょう。以下の例文3は、長い修飾語から先に伝えた文です。長い修飾語から先に伝えていれば、読点がなくても意味が通ります。
この記事のメインテーマは「読点」なのですが、この「長い修飾語から先に伝えたほうが日本語は読みやすい」というライティングのルールは結構大切なので、いくつか例を提示します。
例文4ーA:「硬いアスファルトの隙間から」「美しく」咲いた花
例文4ーB:「美しく」「硬いアスファルトの隙間から」咲いた花
例文5ーA:「Amazonのセールで買った」「50型の」テレビ
例文5ーB:「50型の」「Amazonのセールで買った」テレビ
例文6ーA:「文章が上手になるための」「2つの」テクニック
例文6ーB:「2つの」「文章が上手になるための」テクニック
例文4から6まで、どれもAの方が読みやすいはずです。その理由は、長い修飾語から先に伝えているからなんですよね。あなたが文章を書く機会があるなら、このルールは覚えておきましょう。
とはいえ、短い修飾語から先に伝えたいときもあります。短い修飾語から先に伝えたいときには、読点を打つのです。
よく使われる場面は、
なんて風に、まずは主語をズバッと言いたいときなんかですね。
まとめ
この記事では、読点の2大原則をご紹介しました。
- 長い修飾語が2つ以上あるとき、その境界に読点を打つ
- 短い修飾語を先に伝えるときに読点を打つ
これら2つのルールを、僕は『日本語の作文技術』という本から学びました。著者は元朝日新聞記者の本多勝一さん。読点の使い方だけでなく、正しい語順・助詞の使い方・記号の使い方など、読みやすい文章を書くためのあらゆる技術が紹介されています。
読みやすい文章を書きたい全ての方に、元高校国語教師の僕が、胸を張ってオススメできる本です。