こんにちは!今回は、戦略についての表面的な知識、ノウハウではなく、「戦略的な頭の使い方」を学べる本「良い戦略・悪い戦略」の要約レビューをしていきます。
戦略についての基礎を押さえた上で、もう1段上の戦略的思考を身に付けたい方に、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。それでは早速いってみましょう。
良い戦略・悪い戦略の書評、感想
本の内容に入る前に、「良い戦略・悪い戦略」を購入しようか悩んでいる方のために、本書の書評・感想を述べておきます。
正直、この本は結構難解です。邦訳本特有の難解さがあります。なんとなく内容がふわっとしているというか、抽象的な内容が多いため、「これが戦略なのか!」といったスッキリ感はありません。
これから本書を手に取ろうと考える人がいれば、上記覚悟の上読んでみてください。戦略について1から学びたい場合は、本書は適切ではありません。戦略について1からわかりやすく理解を深めたい場合は、森岡毅さんの「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」から入るといいと思います。
ただ、著者の実績は確かです。ルメルト氏は、経営論と経営戦略の世界的権威であり、良い戦略・悪い戦略には、氏が直接関わった事例がかなり豊富に載っています。戦略に関する理解をもう1段深めたい、という方にはおすすめです。
良い戦略とは何か
「戦略の基本は、最も弱いところに、こちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするならば、最も効果の上がりそうなところに、最大の武器を投じることである」
本書は、こんな書き出しで始まります。つまるところ、戦略とは、「選択と集中」なのです。
良い戦略の例として、本書ではアップルが登場しています。
アップルは、1995年にマイクロソフトがWindows95を発売してから、窮地に立たされました。ワイヤードには、「アップルを救う101の方法」なんて記事まで掲載される事態に。
記事の中で提案されていた、アップルが生き残る道は、IBMかモトローラへの身売り、幼児向け教育へ活路を見出すこと、などなど。ウォール街では、SONYかHPと合併交渉すべきだという見方が強まります。
そんなタイミングで、スティーブ・ジョブズがアップルに戻ってきました。投資家は冷ややかな目で見ていましたが、ジョブズが戻ってきてから、1年と経たずアップルに劇的な変化が訪れます。
彼は、非常にシンプルかつ、誰も想像していなかったことをしたのです。
- 競合の激しいコンピュータ業界で、ニッチなメーカーとして生き残る道を見据えて、相応の規模までアップルを縮小
- 15あったデスクトップ機のラインナップを1つに
- ノートパソコンも、1機種に
- 周辺機器は、全て切り捨てた
- ソフトウェア開発もやめて、エンジニアを解雇
- 代理店を整理し、ごく少数に絞る
- 製造部門を廃止し、台湾の製造請負業者に切り替え。在庫を整理
- オンラインにて直販を始める
ジョブズのしたことはすべて、「中核事業に絞り込み、経費を削減する(つまり、選択と集中)」という、ビジネスのイロハでした。にもかかわらず、誰も予想していなかったのです。基本を忠実に守り、着実に実行する。これがいかに難しいかがわかります。
彼は、抜け目ない体制を整えたのち、次の機会の窓が開くのを待ちました。その機会こそが、皆さんご存知のiPhoneとiPodです。
悪い戦略の4つの特徴
良い戦略を立てるには、反対に「悪い戦略」を知ることも大切です。良い戦略・悪い戦略では、悪い戦略の4つの特徴が紹介されています。
空疎な戦略
戦略の中では、何かを言っているようで、何も言っていないものがありふれています。そのような空疎な戦略は、不用意に難解な用語を使い、高度な戦略であるかのような錯覚を抱かせます。
空疎な戦略の例として、大手リテール銀行の戦略が挙げられています。
われわれの基本戦略は、顧客中心の仲介サービスを提供することである
あれ?名だたる大企業の戦略って、こんなのばっかりじゃ・・・。おっと、誰か来たようだ。
仲介サービスというと、それっぽく聞こえますが、要するにお金を預かって貸し出すことなので、銀行の本業に過ぎません。「顧客中心」という表現も、サービス業ならばあたらめて言うほどのことでもありません。
つまり、中身がないのです。
「私たちの戦略は、銀行であることです」
と言っているに過ぎません。分かりきったことが必要以上に難しく表現されていれば、悪い戦略を疑ってください。
空疎な戦略を見ても、結局何をすべきか、そして「何をすべきでないのか」がわかりません。P&Gの森岡氏は、良い戦略の要素は「Selective(選択的である)」ことだと言っています。
良い戦略は、何をすべきなのかと同時に、何をすべきでないのかが分かります。
重大な問題に取り組まないこと
「臭いものには蓋をする」といったように、重大な問題を何らかの理由で直視しないことがあります。見て見ぬ振りですね。
重大な問題に取り組まなければ、問題解決になりません。モグラ叩きをしていても、根本原因を解決しない限り、また同様の問題が起きてしまいます。
重大な問題に取り組まない理由としては、「重大な問題を、重大な問題として認識できない」ことがあります。
「本当にこの問題を解くべきなのか」「この問題を解いたら、真の問題解決につながるか」をまずは考える必要があります。(この辺の話は、「イシューから始めよ」「論点思考」なんかが参考になります)
どちらも非常に良書です。論点思考は、このブログでも取り上げるとともに、YouTubeでも解説しました。
目標と戦略を取りちがえること
ありがちなミスが、目標(スローガンのようなもの)を戦略としてしまうことです。
- お客様に選ばれる会社になろう
- 創造性あふれる独自のソリューションを提供しよう
- 売上高を毎月〇%伸ばそう
- オープンな職場にする
- 社会に貢献するリーディングカンパニーになる
こういうスローガンは結構ありふれていますね。スローガンとしてはもちろんいいんですが、戦略としては間違いです。
本書では、戦略はテコのようなものだ、と言われています。筋肉と根性で大きな岩は運べるかもしれませんが、テコを利用した方がずっと楽に運べます。スローガンを戦略としては、根性で岩を運ぶようなものです。
非常に腑に落ちた本書の一文を引用します。
頑張ることは人生において大事ではあるが、「最後の一踏ん張り」をひたすら要求し続けるだけのリーダーは能がない。リーダーの仕事は、効率的に頑張れるような状況を作り出すことであり、努力する価値のある戦略を立てることである。
間違った戦略目標(戦術)を掲げること
なぜ間違った戦略目標を掲げてしまうのか。以下のような原因が挙げられています。
寄せ集めの目標
いろいろなことを詰め込みすぎて、ごった煮状態の目標が掲げられることがあります。さまざまな部署から関係者が集まって、戦略プランニングをしていると、意見がまとまらずに「寄せ集めの戦略目標」ができてしまいやすいので、注意が必要です。
他部署の意見を無下にすることもできないため、折衷案として、「みんなの意見を公平に取り入れました」みたいな戦略目標ができてしまいがちですが、これは得てして悪い戦略になります。(戦略の基本は、選択と集中です)
非現実的な目標
非現実的な目標は、「戦略を実現するためには、どうしたらいいか」という視点が欠けています。そもそも実行不可能なのであれば、その目標に意味はありません。
おわりに
マネジメント層は「この方向に進もう」と舵を着る機会が多いですが、舵を着る方向を間違えるとチームにとっては大打撃です。戦略レベルのミスは、戦術レベルのミスよりも大きな損害を生みます。だからこそ、正しく戦略的思考を身につけ、舵を着る方向を間違えないようにしていきましょう!